横浜地方裁判所 昭和48年(わ)151号 判決 1976年2月05日
主文
被告人細川喬を懲役四年に、被告人小林秀一を懲役三年に、被告人大〓一郎を懲役二年六月に、被告人黒川廣治を懲役三年六月に処する。
未決勾留日数中、被告人細川に対しては一五〇日、被告人小林に対しては一八〇日、被告人大〓に対しては一五〇日、被告人黒川に対しては一八〇日を、それぞれその刑に算入する。
この裁判確定の日から、被告人小林に対し四年間、被告人大〓に対し三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人細川から、押収してあるゴルフクラブ一三本(昭和四八年押第一九五号の一)、ゴルフバツグ一個(同号の二)、クラブカバー、ウツド用四個(同号の三)、同パター用一個(同号の四)を、被告人小林から、押収してあるゴルフクラブ一二本(同号の二〇四)、ゴルフバツグ一個(同号の二〇五)を、それぞれ没収する。
被告人細川から、金一、〇七六、七六四円を、被告人小林から、金三八〇、〇〇〇円を、それぞれ追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人細川喬は、昭和四〇年四月一日から昭和四七年九月二二日付で依願退職するまでの間、神奈川県巡査部長として神奈川県警察本部交通部運転免許課自動車運転免許試験場に勤務し、学科試験科の試験官として、自動車等の運転免許試験を受験しようとする者に対する学科試験・適性試験に関する事務を処理する職務に従事していたもの、被告人小林秀一は、昭和三八年一〇月一日から昭和四七年一二月二一日付で懲戒免職となるまでの間、同県技術吏員として同試験場に勤務し、技能試験科の試験官として、受験者に対する技能試験に関する事務を処理する職務に従事していた者、被告人大〓一郎は、土木建築を主たる業務とする和栄工業株式会社の代表取締役をしていた者、被告人黒川廣治は不動産の仲介業などを営んでいた者であるところ、
第一 別表第一の(一)欄記載の被告人は、同表(二)欄記載の者と(ただし、番号49については、同表(一)欄記載の被告人らの間のみにおいて)共謀のうえ、いずれも不正の手段により同表(三)欄記載の者に対する同表(六)(4)欄記載の各自動車等の運転免許証の交付を受けようと企て、いずれも、当時前記冒頭記載の職務に従事していた細川喬において、同表(四)(1)欄記載の年月日もしくはそのころ、いずれも横浜市旭区中尾町五五番地所在の前記試験場において、同表(四)(2)欄記載の不正の方法を講じ、もつて、同表(三)欄記載の者が、それぞれその都度、同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の学科試験(法令・構造試験)および適性試験(ただし、同表番号26、27の各(三)欄記載の者については法令試験を除き、番号38ないし43、45、49、60、62、64、65、85の各(三)欄記載の者については学科試験を除く。)に合格した旨の不正の取扱いをし、
(イ) よつて、同表番号5、7、12、13、16ないし23、26ないし28、34ないし56、66ないし69、71、73、75、76、79ないし84、86ないし89の各(三)欄記載の者をして技能試験に合格させ、
(ロ) 同表番号74の(三)欄記載の者をして技能試験免除の扱いを受けさせ、
(ハ) その余の同表(三)欄記載の者については、次いで、当時同県技術吏員として前記試験場に勤務し技能試験科の試験官として受験者に対する技能試験に関する事務を処理する職務に従事していた同表(五)(1)欄記載の者において、同表(五)(2)欄記載の年月日に、同表(五)(3)欄記載の不正の方法を講じ、もつて、右同表(三)欄記載の者がそれぞれその都度右免許試験の技能試験に合格した旨の不正の取扱いをし
たうえ、同表(六)(3)欄記載の者において、同表(六)(1)欄記載の年月日に、同表(六)(2)欄記載の場所において、それぞれ当該警察署もしくは前記試験場係官から、同県公安委員会発行にかかる同表(三)欄記載の者に対する同表(六)(4)欄記載の自動車運転免許証各一通の交付を受け、もつて、いずれも、不正の手段により自動車等の運転免許証の交付を受け、
第二 被告人細川および同小林は、共謀のうえ、昭和四六年九月ころ、横浜市瀬谷区瀬谷町三九二番地の四所在の出羽保重方居宅において、被告人細川において、同被告人らが松本説悟の自動車運転免許証取得に際し判示第一の1記載のとおり職務上不正の行為をしたことに対する謝礼の趣旨で出羽保重、松本説悟の両名から贈与されるものであることの情を知りながら、右出羽から、被告人細川、同小林両名に対する分として一括して金一五〇、〇〇〇円の現金の交付を受け、もつて、被告人両名の前記職務に関して賄賂を収受し、
第三 被告人細川は、昭和四五年六月二三日ころ、前記試験場事務室において、我妻良行から、不正の手段により被告人黒川廣治に第一種普通自動車運転免許証を取得させて貰いたい旨の請託を受け、これに対する謝礼の趣旨で同人らから贈与されるものであることの情を知りながら、金三〇、〇〇〇円の現金の交付を受け、もつて、被告人細川の前記職務に関して賄賂を収受し、
第四 別表第二の(一)欄記載の被告人は、同表(二)欄記載の年月日もしくはそのころ、同表(三)欄記載の場所において、同表(四)欄記載の者から、不正の手段により同表(五)欄記載の者に同表(六)欄記載の自動車等の運転免許証を取得させて貰いたい旨の請託を受け、これに対する謝礼の趣旨で同表(七)欄記載の者から贈与されるものであることの情を知りながら同表(八)欄記載の現金の交付を受けて賄賂を収受し、因つて同表(九)欄記載のとおり不正の行為をし、
第五 別表第三の(一)欄記載の被告人は、同表(二)欄記載の年月日もしくはそのころ同表(三)欄記載の場所において、同表(四)欄記載の者から、同表(五)欄記載の者の自動車等の運転免許証取得に際し(同表番号17、19、20についてはその不正取得方の請託を受けて)同表(六)欄記載のとおり不正の行為をなしたことに対する謝礼の趣旨で同表(七)欄記載の者から贈与されるものであることの情を知りながら同表(八)欄記載の現金又は物品の交付もしくは饗応接待をうけ、もつて、右被告人らの前記職務に関して賄賂を収受し、
第六 被告人大〓は、別表第四の(一)欄記載の者と共謀のうえ、同表(二)欄記載の年月日に、同表(三)欄記載の場所において、いずれも同被告人において、前記職務を有する被告人細川喬に対し、同人が同表(四)欄記載の者の自動車等の運転免許証取得に際し同表(五)欄記載のとおり職務上不正の行為をしたことに対する謝礼の趣旨で同表(六)欄記載の現金の交付又は饗応接待をし、もつて、公務員である右細川の職務に関して賄賂を供与し、
第七 被告人黒川は、
一 宇野政一と共謀のうえ、昭和四七年一月下旬ころ、神奈川県川崎市高津区新作三二一番地の四六所在のバー「京子」こと山田ハル方において、同被告人において、前記職務を有する被告人細川喬に対し、不正の手段により右宇野に第一種普通自動車運転免許証を取得させて貰いたい旨の請託をなし、因つて、被告人細川が右宇野の右運転免許証取得に際し、判示第一の91記載のとおり職務上不正の行為をしたことに対する謝礼の趣旨で、金一六、六六六円相当の酒食などの饗応接待をし、もつて、公務員である右細川の職務に関して賄賂を供与し、
二 別表第五の(一)欄記載のものと共謀のうえ、同表(二)欄記載の年月日もしくはそのころ、同表(三)欄記載の場所において、同表(四)欄記載の者において、同表(五)欄記載の者に対し、不正の手段により同表(六)欄記載の者に同表(七)欄記載の自動車等の運転免許証を取得させて貰いたい旨の請託をなし、これに対する謝礼の趣旨で同表(八)欄記載の現金を交付し、もつて、公務員である被告人細川又は同小林の職務に関して賄賂を供与し、
三(一) 山尾敏昭、内海珠江と共謀のうえ、昭和四七年七月八日、川崎市高津区鷺沼一の一一の六川野ビル五階五〇一号室内海珠江方において、同日施行の昭和四七年度第三回川崎市主催川崎競輪第二日目第八レースの競争に関し、電話で、石〓良作をして勝者を予想指定させ、勝者投票券券面金額の一〇〇円を一口とした六〇口、金六、〇〇〇円を申込みをさせながら勝者投票券を購入せず、予想の的中するときは競輪主催者のなす払戻金と同額の払戻しをし、的中しないときは後刻申込者から申込金を提供させ、その金銭を自己の利得として利を図るいわゆる呑み行為をし、もつて、同人をして勝者投票類似行為をさせ、
(二) 右内海珠江と共謀のうえ、同年八月一日、前記場所において、同日施行の同年度第四回東京都一一市競輪事業組合主催京王閣競輪第六日目第五レースの競走に関し、電話で武笠高四をして、前同様の方法により一〇〇口、金一〇、〇〇〇円の申込をさせていわゆる呑み行為をし、もつて、同人をして勝者投票類似行為をさせ、
(三) 前記山尾敏昭と共謀のうえ、別表第六記載のとおり、同年八月一七日から同月一九日までの間、東京都世田谷区代沢五の二四の三マインドハウス二階貫洞寿美方において、千葉競輪外二か所の競輪の各競走に関し、電話で宮内勝也をして、前同様の方法により合計七二、六〇〇口、合計金額金七、二六〇、〇〇〇円の申込をさせていわゆる呑み行為をし、もつて、同人をして、勝者投票類似行為をさせ
ていずれも財産上の利を図り、
四 昭和四七年六月一七日午後一〇時ころから翌一八日午前八時ころまでの間、川崎市高津区二子七七二番地高木實方において、賭場を開設し、藤田良夫ほか一〇数名の賭客を集めて、花札を使用し金銭を賭け、俗に「手本引き」と称する博奕をさせ、その際その勝者などから寺銭名下に金銭を徴して利を図り、
五 博徒稲川組系山崎一家の構成員金漢得、朴広好、天谷義武、工藤栄治郎ら一〇名位の者と共謀のうえ、同組員白髭正男(当時三二年)が組の統制を乱したとしてこれに制裁を加えることを企て、昭和四五年六月一五日午前三時三〇分ころ、右白髭を川崎市溝ノ口(現在は同市高津区溝ノ口)二四九番地オリエンタル企画事務所内の四畳間に連れ込んだうえ、同所において、所携の角棒及び木刀をもつて同人の頭部、腹部等を殴打し、さらに顔面に頭突きを加えるなどの暴行を加え、よつて同人に加療約六か月間を要する頭部割創、左動眼神経麻痺等の傷害を与え、
六 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四九年七月二五日午後四時五〇分ころ、同県川崎市高津区溝ノ口一、二一六番地先道路上において普通乗用自動車(横浜五五て二四三号)を運転し
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(累犯前科)
被告人黒川廣治は、(1)昭和三九年四月二七日東京地方裁判所で暴力行為等処罰に関する法律違反の罪で懲役一〇月に処せられ、昭和四一年三月二一日右刑の執行を受け終わり、(2)昭和四一年四月三〇日前同裁判所で<1>強盗幇助罪で懲役二年(未決勾留日数八〇日算入、二日法定通算)に<2>賭博開張図利、同幇助罪で懲役一年(未決勾留日数二〇日算入、二日法定通算)に処せられ、昭和四三年五月八日右<1>の刑につき、昭和四四年四月一六日右<2>の刑につき、それぞれその執行を受け終り、(3)前記(1)の刑執行終了後である昭和四一年四月二〇日ころから翌二一日ころにかけて犯した賭博開張図利罪により、昭和四一年一一月一九日前同裁判所で懲役六月に処せられ、昭和四四年一〇月一六日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書(乙)謄本、同被告人に対する昭和四一年一一月一九日付判決謄本、同被告人の司法警察員に対する昭和四五年六月二五日付および昭和四七年一二月二〇日付各供述調書(前者は謄本)によりこれを認める。
(法令の適用)
一 該当法条等
1 被告人らの判示第一の各道路交通法違反の所為につき、刑法六〇条、道路交通法一一七条の三第二号(番号12、13、26、34の各事実については、刑法六〇条、昭和四五年法律第八六号による改正前の道路交通法一一七条の二第三号)(被告人細川、同小林につき番号2、12ないし15、17ないし23、26ないし29、34ないし43、45、49ないし51、53、54、59、60、62、64ないし69、71ないし87の各道路交通法違反の罪につき所定刑中懲役刑選択。被告人大〓、同黒川につき、同被告人らの各道路交通法違反の罪につき所定刑中懲役刑選択)
2 被告人細川、同小林の判示第二の各枉法収賄の所為につき、
刑法六〇条、一九七条の三第二項
3 被告人細川の判示第三の受託収賄の所為につき、
同法一九七条一項後段
4 被告人細川、同小林の判示第四の各枉法収賄の所為につき、
同法一九七条の三第一項(一九七条一項後段)
5 被告人細川、同小林の判示第五の各枉法収賄の所為につき、
同法一九七条の三第二項
6 被告人大〓の判示第六の各贈賄の所為につき、
同法六〇条、一九八条一項(一九七条の三第二項)、罰金等臨時措置法三条一項一号(ただし番号1ないし7については昭和四七年法律第六一号による収正前の同条項(以下旧罰金等臨時措置法という。))(番号2、4ないし8の各贈賄の罪につき所定刑中懲役刑選択)
7 被告人黒川の判示第七の一の贈賄の所為につき
刑法六〇条、一九八条一項(一九七条の三第二項)、旧罰金等臨時措置法三条一項一号(所定刑中懲役刑選択)
8 同被告人の判示第七の二の1の贈賄の所為につき
刑法六〇条、一九八条一項(一九七条一項後段)、旧罰金等臨時措置法三条一項一号(所定刑中懲役刑選択)
9 同第七の二の2ないし15の各贈賄の所為につき、
刑法六〇条、一九八条一項(一九七条の三第一項、一九七条一項後段)、旧罰金等臨時措置法三条一項一号(番号1ないし5、8、9、11、14、15の各贈賄の罪につき所定刑中懲役刑選択)
10 同第七の三の各自転車競技法違反の所為につき、
刑法六〇条、自転車競技法一八条二号(所定刑中懲役刑選択)
11 同第七の四の賭博開張図利の所為につき、
刑法一八六条二項
12 同第七の五の傷害の所為につき、
同法六〇条、二〇四条、旧罰金等臨時措置法三条一項一号(所定刑中懲役刑選択)
13 同第七の六の道路交通法違反の所為につき、
道路交通法一一八条一項一号、六四条(所定刑中懲役刑選択)
二 科刑上一罪の処理等
左記表の上欄記載の各枉法収賄罪若しくは贈賄罪と、これらに対応する下欄記載の各道路交通法違反の罪、枉法収賄罪若しくは贈賄罪とは、それぞれいずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い上欄記載の各枉法収賄罪又は贈賄罪(番号31ないし43については犯情の重い上欄記載の各枉法収賄罪又は贈賄罪)の刑で処断(番号38ないし43の贈賄罪につき所定刑中懲役刑選択)
<省略>
<省略>
<省略>
三 累犯加重(被告人黒川廣治につき)
1 被告人黒川の判示第一の8、27、51、72、86、87、第七の二の1ないし3、第七の五の各罪は、同被告人の前示(1)(3)の前科との関係で三犯であるから、いずれも刑法五九条、五六条一項、五七条により、
2 同被告人の判示第一のその余の罪(9、29ないし33、52ないし56、88ないし91)、判示第七の一ないし四の各罪は、前示(2)(3)の各前科との関係で、また同被告人の判示第七の六の罪は前示(3)の前科との関係でいずれも再犯であるから同法五六条一項、五七条により、
それぞれ累犯加重
四 併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条
被告人細川につき、最も重い判示第五の17の枉法収賄罪の刑、
被告人小林につき、最も重い判示第五の19の枉法収賄罪の刑
にそれぞれ同法一四条の制限内で法定の加重
被告人大〓につき、最も重い判示第六の6の贈賄罪の刑に法定の加重
被告人黒川につき、最も重い判示第七の五の傷害罪の刑(ただし、短期は判示第七の四の賭博開張図利罪の刑のそれによる。)に法定の加重
五 未決勾留日数の算入につき
刑法二一条
六 刑の執行猶予
被告人小林、同大〓につき刑法二五条一項
七 没収
1 被告人細川、同小林がそれぞれ収受したゴルフ道具(主文第四項掲記のもの)につき刑法一九七条の五前段
八 追徴
被告人細川、同小林につき同法一九七条の五後段
九 訴訟費用
被告人黒川につき刑事訴訟法一八一条一項但書
(予備的訴因につき判断した理由)
本件公訴事実中、左記各表の事実番号欄記載の事実に関する主位的訴因の要旨は、
一 表Aの(一)欄記載の被告人は(二)欄記載の者と共謀のうえ、(三)欄記載の年月日に、右表1ないし8、10に関してはいずれも被告人黒川において同表9に関しては被告人大〓において、(四)欄記載の者から、(五)欄記載の者に不正の手段により自動車運転免許証を取得させて貰いたい旨の請託を受け、それに対する謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら(六)欄記載の現金の交付を受けて賄賂を収受し、
(表A)
<省略>
二 表Bの(一)欄記載の被告人は共謀のうえ、(二)欄記載の年月日に、いずれも被告人大〓において、(三)欄記載の者から、(四)欄記載の者の自動車運転免許証取得に際し、いずれも被告人細川が不正の行為をしたことに対する謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら(五)欄記載の現金の交付を受けて賄賂を収受し
(表B)
<省略>
たものであるというのであるが、審理の結果によると、右記載の各日時ころ、被告人大〓又は同黒川が、それぞれ右記載の趣旨で現金を受け取つた事実は認められるけれども、被告人細川および同小林(又は被告人細川)と、被告人大〓又は同黒川とが賄賂金収受に関し共謀したことは認めるに足る証拠はなく、主位的訴因については犯罪の証明がないことになる。従つて、判示のとおり、いずれも予備的訴因につき判断した。
(弁護人の主張に対する判断)
被告人細川の弁護人らは、本件各枉法収賄とこれに対応する各道路交通法違反の所為はそれぞれ一所為数法の関係にあるものと解すべきところ、同被告人に対する各起訴状の公訴事実をみると、検察官は各枉法収賄の罪について、いずれも道路交通法違反の事実を併合罪として同時に又は起訴日をかえて二重起訴をした違法があるので、右二重に起訴された道路交通法違反被告事件はすべて公訴棄却さるべきである旨主張する。
よつて検討するに、同被告人に対する本件各起訴状の公訴事実中各枉法収賄とこれに対応する道路交通法違反の各所為がそれぞれ一所為数法の関係に立つことは右弁護人ら主張のとおりである。しかしながら、弁護人指摘(箕山弁護人の弁論要旨二枚目裏、三枚目表参照)の昭和四七年(わ)一、九四二号、同四八年(わ)五〇号、一八九号、四四〇号、五五八号、五六〇ないし五六三号、八〇五号、一、一七九号、一、三二四号、一、八四三号事件各起訴状の公訴事実中右五六三号事件の公訴事実第一別表10を除く弁護人指摘の各道路交通法違反の事実と右各起訴状中これらに対応する各枉法収賄の公訴事実が一所為数法の関係に立つことは検察官自身釈明するところであり(昭和四九年三月一一日付釈明書参照)、右各起訴状に枉法収賄の公訴事実とは別個に所論指摘のような道路交通法違反の公訴事実の記載があることをもつて二重起訴の違法があるとの右弁護人の主張は採用できない。
また、右弁護人指摘の同被告人に対する昭和四八年三月二二日起訴の同年(わ)五六三号事件起訴状公訴事実第一別表10の道路交通法違反の所為は所論のとおり、これに対応する同年四月二三日起訴の同年(わ)七八九号事件起訴状の公訴事実第一の枉法収賄の所為と一所為数法の関係にあるので、後者を審判の対象とするには検察官は手続上追起訴によるべきではなく、訴因変更の請求をなせば足りたものであるが、当裁判所は右の事実に関しては、当該追起訴の時点において訴因変更の請求があつたものと解するので、それが二重起訴に当る旨の所論もまた採用することができない。
よつて、主文のとおり判決する。
(別紙)
事件番号一覧表
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
被告事件名一覧表
被告事件名 被告人
道路交通法違反、枉法収賄、受託収賄
一 細川喬
道路交通法違反、枉法収賄
二 小林秀一
道路交通法違反、枉法収賄(予備的訴因贈賄)
三 大〓一郎
道路交通法違反、枉法収賄(予備的訴因贈賄)贈賄、自転車競技法違反、賭博開張図利、傷害
四 黒川廣治
別表第一(判示第一)
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙一
1(答案書き改め)
別表第一の(三)欄記載の者がそれぞれ受験のうえ作成提出した同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の学科試験(法令・構造試験)答案の「答」欄を、同試験の正解表を参照してほしいままに合格点に達する答に書き改め、また、同表(三)欄記載の者が右免許試験の適性試験を受験せずこれに合格した事実がないのに同欄記載の者の申請調査票の右試験欄にこれに合格した旨の記載をし、もつて、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法
2(答案すりかえ)
あらかじめ別表第一の(三)欄記載の者をして、その「受験者名」欄にその氏名を記載させておいた同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験学科試験(法令・構造試験)の答案用紙の「答」欄に、同試験の正解表を参照して、ほしいままに合格点に達する答を記載して答案を作成し、その答案と、同表(四)(1)欄記載の年月日に同表(三)欄記載の者が法令所定の手続に従つて受験のうえ作成提出した学科試験答案とをひそかにすりかえ、法令・構造の各試験に合格の採点をし、また、同欄記載の者が右免許試験の適性試験を受験せずこれに合格した事実がないのに同欄記載の者の申請調査票の右試験欄にこれに合格した旨の記載をし、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法(ただし、別表第一の87については、受験者名欄に白髭一三の氏名を記載したのも被告人細川)
3(適性試験省略)
別表第一の(三)欄記載の者が同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の適性試験を受験せずこれに合格した事実がないのに、同表(三)欄記載の者の申請調査票の右試験欄に、これに合格した旨の記載をし、もつて、同表(三)欄記載の者が法令所定の適性試験に合格した旨不正の取扱いをする方法
4(受験なし)
別表第一の(三)欄記載の者が同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の学科試験(法令・構造試験)および適性試験を受験せずこれらに合格した事実がないのに、あらかじめ同表(三)欄記載の者をして、その「受験者名」欄にその氏名を記載させておいた右免許試験の学科試験の答案用紙の「答」欄に、同試験の正解表を参照してほしいままに合格点に達する答を記載したうえ、法令・構造の各試験に合格の採点をし、また、同表(三)欄記載の者の申請調査票の適性試験欄に合格した旨の記載をし、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法(ただし、別表第一の54については、受験者名欄に辛漢一の氏名を記載したのは辛炳圭)
5(受験者が答案作成)
別表第一の(三)欄記載の者が同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の学科試験(法令・構造試験)および適性試験を受験せずこれらに合格した事実がないのに、あらかじめ同表(三)欄記載の者をして、その「受験者名」欄にその氏名を、「答」欄に右試験の正解表を参照させて合格点に達する答をそれぞれ記載させておいた右免許試験の学科試験答案用紙に合格の採点をし、また、同表(三)欄記載の者の申請調査票の適性試験欄に合格した旨の記載をし、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法
6(構造試験等受験なし)
別表第一の(三)欄記載の者が同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験学科試験の構造試験および適性試験を受験せずこれらに合格した事実がないのに、あらかじめ同表(三)欄記載の者をして、その「受験者名」欄にその氏名を記載させておいた右免許試験の構造試験答案用紙の「答」欄に、同試験の正解表を参照してほしいままに合格点に達する答を記載したうえ合格の採点をし、また、同表(三)欄記載の者の申請調査票の適性試験欄に合格した旨の記載をし、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法
7(受験者に作成させた答案とすりかえ)
別表第一の(三)欄記載の者をして、同表(六)(4)欄記載の自動車等の運転免許試験の学科試験(法令・構造試験)の答案用紙の「受験者名」欄にその氏名を、「答」欄に別表第一の68の事実については昭和四七年八月一八日施行の、同84の事実については同年九月一一日施行の各右試験の正解表を参照させて合格点に達する答をそれぞれ記載させて答案を作成させ、ついで、右答案に合格の採点をし、その答案と、同表(三)欄記載の者が右各施行日に法令所定の手続に従つて受験のうえ作成提出した学科試験答案とをひそかにすりかえ、また、同欄記載の者が右免許試験の適性試験を受験せず、これに合格した事実がないのに、同欄記載の者の申請調査票の右試験欄にこれに合格した旨の記載をし、同表(三)欄記載の者が法令所定の右各試験に合格した旨の不正の取扱いをする方法
別紙二
1 別表第一の(二)欄記載の者が法令所定の学科試験、適性試験に合格したものでないため、これらの者に対し、技能試験を行なつてはならないことを知りながら技能試験を行なつて合格の取扱いをする方法
2 別表第一の(二)欄記載の者が、技能試験を受験せず、これに合格した事実がないのに、ほしいままに技能試験成績表用紙の得点結果欄に合格点に達する得点を記載するなどして合格の取扱いをする方法
別表第二(判示第四)
<省略>
別表第三(判示第五)
<省略>
<省略>
別表第四(判示第六)
<省略>
別表第五(判示第七の二)
<省略>
別表第六(判示第七の三の(三))
<省略>